
アーネスト・ロッシの超日周期リズムの理論は、人間の心身に深く根ざした自然なリズムを活用することで、健康と癒しを促進するという興味深いものです。詳しく見ていきましょう。
私たちには、1日24時間周期を繰返す生物時計が備わっています。この約24時間周期のリズムをサーカディアン・リズムと呼んでいます。
人を含む生物にはサーカディアン・リズムよりも短い周期で繰り返すリズムがあることがわかっています。そのサーカディアン・リズムよりも短い時間で繰り返すリズムを超日周期リズム(ウルトラディアン・リズム)といいます。
ウルトラディアン・リズムの中で、特に睡眠周期を管理する90分の周期を「基礎的休止ー活動周期」(Basic Rest Activity Cycle):BRACといいます。
ウルトラディアン・リズムは、睡眠、ホルモン分泌、体温調節、免疫機能、認知機能など、様々な生理現象に影響を与えています。
ロッシは、この超日周期リズムに意識的に合わせることによって、心身のバランスを整え、健康を促進できると考えました。
ロッシは、エリクソンの催眠療法を研究する中で、この超日周期リズムに注目しました。そして、エリクソンの間接的な暗示技法が、潜在意識に働きかけ、この自然なリズムと調和することで、心身の自然治癒力を活性化すると考えました。
ロッシは、エリクソンのセッションが当時の通常のセッション時間より長いことに気づきました。
ロッシは、エリクソンに師事する前、フロイトやユングの精神分析アプローチを学んでいて、精神分析ではセッションは45分というのが一般的だったようです。
それに対して、エリクソンのセッションは90分、長いときには120分掛かっていたそうです。
ロッシがエリクソンで学び始めた当初、それまで精神分析アプローチのセッション時間に馴染んでいたロッシは
エリクソンのセッションがあまりにも長いので、セッションを撮影しながら「ビデオテープが終わってしまう!」と焦ったほどだそうです。
ロッシが、エリクソンにそのセッションの長さについて尋ねたところ、エリクソンは「ワークをやり切るにはそれだけ時間が掛かるんだ!」と言われたそうです。
ロッシは「エリクソンのこの言葉を理解するのに20年掛かった」とコメントしています。
エリクソンが亡き後、ロッシは生物学的なアプローチから動物はウルトラディアン・リズムという1日周期のリズム(サーカディアン・リズム)よりも短い周期があることをしりました。
そのウルトラディアン・リズムの中で、特に睡眠周期を管理する90分の周期を「基礎的休止ー活動周期」(Basic Rest Activity Cycle:BRAC)といいます。
ロッシはこのBRACがエリクソンのセッションの長さに関連していたのではと仮説立てたのです。
ロッシはエリクソンのセッションの長さに興味を持った生物学者デビット・ロイドと共同研究を進めました。
参考:Ultradian Rhythms in Life Processes 著者:David Lloyd(Author),Ernst L.Rossi(Editor) 出版社:Springer Verlag(1992年1月1日初版)
もちろん、現代では分子生物学の世界ではサーカディアンリズムと並んで常識的となっている90分周期の体内リズムは、エリクソンがセラピーを行っている当時は仮説もない時代だったので、エリクソンがBRACについて知っていたわけではなく、クライアントの様子を観察し、クライアントの変化には90分掛かると、経験的に感じていたのだろうと、ロッシは述懐しています。
催眠状態では、脳波が変化し、潜在意識へのアクセスが容易になります。
ロッシは、催眠療法の中で、この超日周期リズム、BRACに合わせた暗示をかけることで、より効果的に心身に働きかけ、治療効果を高めることができると考えました。
ロッシは、催眠療法だけでなく、日常生活においても、この超日周期リズムを意識することが重要だと述べています。
例えば、90〜120分ごとに短い休憩をとったり、軽い運動をしたり、瞑想したりすることで、心身のバランスを整え、ストレスを軽減することができます。
ストレス軽減: 定期的な休息は、ストレスホルモンの分泌を抑え、リラックス効果を高めます。
集中力向上: 集中力は持続するものではなく、波があります。超日周期リズムに合わせて休憩をとることで、集中力を維持しやすくなります。
創造性アップ: 休息中に潜在意識が活性化し、新しいアイデアが生まれやすくなります。
心身の健康: 自律神経のバランスが整い、免疫力が高まります。
作業効率: 仕事や勉強を90〜120分ごとに区切り、短い休憩を挟む。
睡眠: 昼休憩に20分ほど仮眠をとる。
リフレッシュ: 軽い運動、ストレッチ、瞑想などを取り入れる。
食事: 空腹を感じたら、少量の食事や間食をとる。
リズムに合わせた暗示: 催眠誘導の際に、超日周期リズムを意識し、それに合わせた言葉やイメージを用いることで、クライアントをより深い催眠状態へと導きます。 例えば、「あなたの呼吸がゆっくりと深くなっていくように、心も体もリラックスしていく」といった暗示を、クライアントの呼吸リズムに合わせて繰り返すことで、自然な形で催眠状態を深めていきます。
休息と活性化のサイクル: 催眠療法のセッション中にも、超日周期リズムを考慮し、クライアントが自然な休息と活性化のサイクルを経験できるように促します。 例えば、深いリラクセーションを促す暗示の後には、軽い覚醒を促す暗示を挟むことで、クライアントの集中力と受容性を維持します。
潜在意識へのアクセス: 超日周期リズムに合わせて休息と活動のサイクルを繰り返すことで、潜在意識へのアクセスが促進されるとロッシは考えました。 催眠状態と覚醒状態を繰り返すことで、クライアントは、意識と潜在意識の境界を行き来し、問題の根本原因や解決策への気づきを得やすくなります。
自己治癒力の活性化: 超日周期リズムは、心身の自然治癒力と深く関わっています。 ロッシは、催眠療法の中で、クライアントの潜在意識に働きかけ、この自然治癒力を活性化することで、心身のバランスを整え、問題解決を促進すると考えました。
ロッシの超日周期リズムの理論は、私たちが本来持っている自然なリズムに意識を向けることで、心身の健康を促進するための、シンプルながらも効果的な方法と言えるでしょう。